次世代電池開発における革新、生成AI(LLM)とRAGを用いた
「電池スラリー解析システム」の構築

次世代電池の製造において極めて重要な「電池スラリー」の流動特性解析を効率化するため、大規模言語モデル(LLM)と検索拡張生成(RAG)を組み合わせた推論デモシステムを開発しました。

背景 


 電気自動車(EV)の普及に伴い、次世代電池の高性能化と製造コストの低減は喫緊の課題です。
その製造工程において、活物質や導電助剤を溶媒に分散させた電池スラリーの流動特性(せん断粘度)は、電極の塗布精度や乾燥後の構造、最終的な電池性能(エネルギー密度やサイクル寿命)に直結します。
しかし、電池スラリーは混練後の時間経過とともに内部構造が再編成され、粘度が複雑に変化する特性を持っており、その管理には高度な専門知識と経験が必要です。
製造現場で蓄積される膨大な数値ログデータを、いかに効率的に解析し、次なる配合設計やプロセス最適化に活かすかが、開発スピードを左右する大きな鍵となっていました。

課題 


 スラリーの粘度が混練直後から刻一刻と変化し、その挙動が配合や環境に左右されるため、最適な塗布タイミングを一律にルール化できず、品質を安定させるための厳密な工程管理が困難となっています。
また、膨大な数値ログの解析と、その背後にある物理的要因を専門知識と照らし合わせる考察作業が、熟練技術者の手作業に依存しており、データと理論の橋渡しに多大な工数がかかります。

アプローチ 


 数値ログデータの前処理として、混練時間や経過時間、せん断粘度の最大値・最小値などをルールベースで文章化する手法を開発し、LLMが理解しやすいテキスト形式へと変換しました。
システム構成においては、ローカル環境での運用を想定し、オンプレミス型のRAGアーキテクチャを採用しました。
検索精度の向上には、ユーザーの質問から複数の異なる検索クエリを生成する「マルチクエリ検索」や、想定回答を一旦生成してから検索を行い、クエリと実験データの文章量の差による類似度の低下を克服しました。
検証タスクとして、既存データの中間点を予測する「内挿予測」や、データの範囲外を数学的に推定する「外挿予測」に加え、事前知識としての理論解説テキストをシステムに組み込み、実験結果との矛盾点を指摘させる「因果推論タスク」を実施しました。
また、自立で思考するAIエージェントを複数組み合わせることにより、より複雑なタスクを解決できるマルチエージェントシステム(MAS)も採用し検証をおこないました。
評価にあたっては、RAGAS(RAG Assessment)や「LLM-as-a-judge」といったフレームワークを導入し、回答の忠実性や融合性を定量・定性の両面から検証しました。

電池スラリー事例

得られた結果 


 スラリーの粘度上昇要因を、AIが「粒子間の再凝集」や「バインダーの再配置」といった具体的な物理現象と結びつけて高度に推論・解説できることを実証しました。
これにより、一律のルール化が難しかった複雑な経時変化に対し、理論的背景に基づいた厳密な工程管理(塗布タイミングの最適化)を支援する基盤が整いました。
また従来、熟練技術者が膨大なログと専門知識を照合して手作業で行っていた「実験データと理論の紐付け・仮説検証」のプロセスを、AIが代替できる可能性を示しました。

今後の展望 


 検索精度をさらに高めるために、メタデータを用いた動的フィルタリングの実装や、実験者・条件などの構造化データの更なる活用を検討しています。
今回構築した解析システムを用いて、電池製造工程全体のリアルタイム・モニタリングや最適な配合条件の自動提案へと発展させ、次世代電池の早期実用化への貢献を目指します。