今回は、アイクリスタル株式会社が主に扱っている製造プロセス最適化から視野を広げ、「製造」と密接に関わる「設計」をメインテーマにします。題材として航空機を取り上げますが、業界を問わず多くの方にお読みいただき、設計における制約の特殊性や他分野との共通点について考えるきっかけとなれば幸いです。
航空機の設計・製造では、安全性、軽量化、製造性、コスト、環境影響など多岐にわたる目的が複雑に結びつき、さらに規格や認証制度による制約があります。限られた期間の中で、製造や認証に与える影響まで見据えた判断が求められる厳しい制約です。
このような背景のもと、近年注目されているデータ駆動型アプローチの考え方には新たな可能性があります。ただし、航空機分野のような高い信頼性やトレーサビリティが求められる領域では、既存の解析や試験を置き換えるのではなく、候補探索や判断を支援する形で段階的に適用していくことが現実的です。
本記事では、航空機の構造設計で用いられる安全率1.5という具体例を入り口として、航空機設計・製造がなぜ強い制約のもと行われるのかを整理します。そのうえで、複雑な制約条件下における多目的設計という観点から、プロセスインフォマティクスの枠組みを適用する利点と実務的な進め方について考えます。
※設計領域では近年モデルベース開発の重要性が高まっていますが、その考え方や活用事例については弊社の別ブログで詳しく解説しています。
航空機はなぜ「安全率1.5」で飛べるのか
1930年代は日本で零式艦上戦闘機の設計に取り組まれていた時期です。主任設計者である堀越二郎はアニメ映画「風立ちぬ」の主人公のモデルとしても知られています。堀越は自身の著書1にて、安全率の設定根拠を慣習に捉われず再検討し、部材に応じて従来の1.8から1.6程度に引き下げたことを回想しています。この時期に、米国の航空規則でも安全率1.5という考え方が定着しつつありました。現在でも、FAA(米国連邦航空局)が定める米国航空規則の一つである 14 CFR §25.301および3032では、特に別の指定がない限り、設定された制限荷重(limit load)に1.5を乗じることを求めています。ここでいう制限荷重とは運用で想定される最大レベルの荷重です。14 CFR §25.3052 では、構造はその範囲で有害な永久変形を生じてはならず、制限荷重に安全率を乗じた荷重=終極荷重(ultimate load)までに破壊してはならない、とされています。この1.5という安全率は、一般的な機械設計の感覚から見ると小さく感じられるかもしれません。また静的な強度だけでなく、運用の繰り返し荷重で蓄積される疲労に対する強度や、ある程度の損傷を許容することについても別途評価が求められますが、これらについても単純に大きな強度余裕を確保しておけばよいという考え方にはなっていません。
ここまで読むと、航空機の構造設計が限界ぎりぎりまで攻めているように感じるのではないでしょうか。この背景には、構造の頑丈さ以外の重要な性能とのトレードオフ関係があります。つまり、重量の増加が燃料消費、航続距離、搭載量、運用コストに連鎖するという実情です。単純に厚く、重くすることは、安全側に見えても航空機全体では別の性能要求を満たせなくなる可能性があります。
そこで航空機では、荷重、材料特性、解析方法、試験方法、製造方法、検査方法を細かく規定し、不確かさを一つずつ管理する方向に進化してきました。言い換えれば、比較的小さく見える安全率を成立させているのは、設計者の勘や度胸ではなく、精緻な認証プロセスです。
航空機の安全を支えるスペック
航空機の安全性や信頼性は、膨大な要求事項とそれを証明するための仕組みによって支えられています。そうした要求や検証方法を定めた仕様・規格群が、いわゆるスペックです。航空機の開発では、規則、仕様書、設計基準、材料規格、工程規格、検査要領など、さまざまな文書が設計判断を取り囲みます。航空機の安全性は個人の経験だけに依存するのではなく、明文化された要求とその要求に適合していることを示す証拠によって支えられています。
FARと型式証明
米国では、航空機に適用される規則は連邦規則集であるCFR(Code of Federal Regulations)のTitle 14にまとめられています。実務上これらの航空規則はFAR(Federal Aviation Regulations)と呼ばれます。最もなじみ深い大型旅客機などの輸送カテゴリ航空機には主として14 CFR Part 25の耐空性基準が適用されます。そこには構造だけでなく、飛行性能、システム、装備、防火、乗員・乗客の安全など、多岐にわたる要求が定められています。
航空機メーカーは、設計がこれらの要求に適合することを解析、試験、検査などで示し、FAAなどの認証機関から型式証明(Type Certificate)を取得します。どれだけ優れた設計であっても、型式証明を取得できなければその設計を民間機として実用化することはできません。重要なのは規則に従っていると主張するだけではなく、適合していることを第三者が追跡・確認できる形で説明することです。強度を例にとると、詳細な認証ロジックに基づく試験データと解析結果が必要です3。設計の自由度は最初から規制によって外側から絞られているのが基本です。
こうした厳格な認証制度はエンジニアにとっての制約である一方で、今日において人々が世界中を航空機で自由に行き来できる安全の礎でもあります。型式証明があるからこそ、乗客は機体の安全性について基本的に疑念を持たなくてよい環境が成立しています。
設計のComplianceと製品のConformity
航空機認証を理解するうえで重要なのがComplianceとConformityという二つの視点です。日本語ではどちらも「適合」と訳されることがありますが、ここでは次のように整理すると分かりやすいでしょう。
- Compliance:設計がスペックを満たしていること
- Conformity:製品が設計通りに作られていること
たとえば、強度試験で良好な結果が得られても、製品の代表である供試体の材料、形状、工程が設計と一致していなければ、その結果をそのまま認証根拠として扱うことはできません。反対に、優れた設計であっても、量産品が図面や工程仕様から外れていれば安全性は保証できません。設計と製造の双方に対して厳格な管理が求められます。これが航空機の品質保証の根幹をなしています3。
しがらみだらけの設計空間
航空機設計が慎重にならざるを得ない理由が見えてきました。一方で、最新の解析技術(たとえばAIを用いるような手法)を使えば、もっと斬新で高性能な機体を効率的に開発できるのではないか、という期待もあります。もちろん新しい解析手法や計算性能の向上は設計の可能性を広げる大きな力になります。しかし、まずは「解像度や精度が高そうなこと」と「認証根拠として使えること」の間には距離があるという点を理解しておく必要があります。
「実証された解析手法」という壁
14 CFR §25.3072は、構造解析を用いて強度・変形要求への適合性を示す場合、その解析手法が経験上信頼できると示されている範囲の構造に対して用いることを求めています。それ以外の場合には、規定された荷重までの構造挙動を確認できるよう、試験による裏付けが必要です。これは、新しい構造様式や新しい解析手法に対しては、その信頼性を実証する必要があるという意味であり、新しい解析手法を最初から禁止する規定ではありません。しかし、設計段階から認証のコストやリスクを考慮すると、「より良さそうな手法があっても認証実績がなければすぐには使えない」という状況が生まれます。
そのため、実績が重視される分野では、現在でも長年使われてきた解析手法や古くから体系化されている計算方法が参照されることがあります。重要なのは、それらが古いから優れているということではありません。前提条件や適用範囲が文献上で確認でき、長年の実績と併せて第三者に説明しやすいことに価値があります。
多目的トレードオフの複雑さ
航空機設計は、もちろん強度だけを最大化する単目的問題ではありません。強度、振動、重量、燃費、整備性、製造性、調達性などが相互に干渉します。たとえば外板を厚くすると局所的な強度は増えますが、重量が増え、航続距離や積載重量に影響します。加工方法や締結、検査方法が変われば、製造設備、作業手順、調達、品質保証などにも影響します。材料を変更すれば、材料強度、環境影響、腐食、修理方法、整備性、供給安定性まで再確認が必要になることがあります。
場合によっては、一箇所の形状変更が上記だけでなくComplianceへの影響、つまり型式設計変更に対する追加の承認にまで波及することがあります。設計者は変更の波及効果ばかりか、前項でも触れた認証のコストやリスクを意識しながら判断を下さなければなりません。これが「しがらみだらけ」と表現した理由です。
製造にも厳しい品質要求
厳格なのは設計だけではありません。14 CFR §21.1374は、設計データ、文書、購入品、供給者、製造工程、検査・試験などを管理し、承認された設計に製品が一致していることを求めています。主要材料の一つである炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を例に取れば、受入材料の品質、積層・硬化などの製造工程、非破壊検査を含む検査方法など、さまざまな要素を適切に管理する必要があります5。金属部品でも同様に、熱処理、加工、表面処理などの履歴が重要と言えます。
適用される要求は製品・工程によって異なりますが、最終的に同じものができるなら作り方を変えてもよいとは限りません。製造プロセスの変更もまたConformityの再現性という観点で認証への影響評価が必要になります。使用材料の変更、製造工場の変更、製造設備の更新でさえ、場合によっては設計変更と同等の承認プロセスを踏む必要が生じます。作り方を変えること自体が設計変更と同等のハードルを持つ場合があります。
プロセスインフォマティクスの枠組みを適用する利点と「どこから効くのか」
ここで、近年AIとともに活用が広がるデータ駆動型のアプローチについて、航空機分野との相性を考えてみます。機械学習のようなデータ駆動型のモデルはブラックボックスになりがちであることから、信頼性要求が高く変更に慎重である航空機分野との相性が良くないように見えます。さらに、一般消費財と比べて生産数が少ないという、いわゆるスモールデータ問題にも直面しがちです。
※スモールデータ環境については、弊社の別ブログで詳しく解説しています。
しかし、これはデータ駆動型の考え方が役に立たないということにはなりません。むしろ、認証根拠そのものを置き換えるのではなく、複雑な制約の中で候補を絞り込み、判断材料を整理する技術として捉えるなら、その必要性は高いと考えられます。航空機の開発プログラムは開発期間が長く投資回収までに時間がかかります。また、安全性に関する要求に加え、近年は燃費に代表される運航経済性、CO2排出や騒音、機体寿命を終えた後の廃棄に至るまでのライフサイクル全体を通じた環境負荷低減といった要求も高まり、他社製品との差別化も求められます。つまり長い開発期間と大きな投資リスクを抱える中で、複雑な制約条件を満たす設計をできるだけ早く見つけることが重要です。ここにデータ駆動型のアプローチを適用する利点があります。そしてこの状況は、アイクリスタルが取り組んでいるプロセスインフォマティクスともよく似ています。
プロセスインフォマティクス(PI)とは、製造プロセス開発においてAI、機械学習およびCAE(Computer Aided Engineering)による物理シミュレーションなどを活用し、「どう作るか」を最適化する情報技術です。
※PIついては、弊社の別ブログで詳しく解説しています。
ただし、設計で扱う対象は、製造工程のように温度、圧力、時間などの工程条件で直接記述されるプロセスとは性質が異なります。設計で行われているのは、制約条件を満たす案を探し、比較し、採用できる形に絞り込んでいく判断の積み重ねです。したがって本記事では、PIをそのまま設計に持ち込むのではなく、PIで用いられるデータ駆動型の探索や最適化の考え方を、こうした設計上の判断支援に応用する可能性として捉えます。後述するように、実際にこの課題に正面から取り組んだ研究事例も存在します。
認証された手法を支援する
航空機設計のような領域でデータ駆動モデルを活用するためには、まず「従来手法を置き換える」という構図から離れる必要があります。現実的には、データ駆動モデルが単独で最終的な適合判断を行うのではなく、設計者による探索と意思決定を支援する役割を担います。具体的には、次の三つの観点が重要です。
- 有望候補を絞り込む
たとえば、ある構造部材の板厚や積層構成を検討する場面を考えます。最終的な強度確認や適合性の判断は、従来どおり実績のある解析や試験などに基づいて行います。データ駆動モデルが担うのはその最終判断を肩代わりすることではなく、前段階でどの候補を詳しく調べるべきか、どの条件を早めに除外できそうかを効率的に整理することです。 - 複数案とリスクを提示する
データ駆動モデルの出力は、答えではなく次に確認すべき仮説として扱います。3.2項で示したとおり航空機設計は複雑な多目的トレードオフ問題です。そのため、提示すべきなのは単一の最適解ではなく、複数の有望な候補とそれぞれを採用する場合に確認すべきリスクです。候補ごとの利点と懸念点が分かりやすく可視化されていれば、設計者は次に行う検討の優先順位を決めやすくなります。 - 判断根拠を記録する
候補を選んだ理由を後から追える形で残すことも重要です。航空機のような多目的設計では、各要求が複雑に絡み合う中で、何を優先し、何を許容し、どのリスクを追加確認に回したのかが問われます。判断の履歴が残っていれば、後続の設計変更やレビューでも、同じ前提に基づいて議論を始めやすくなります。
事例1:設計・製造・調達をまたぐ多目的最適化
Bartoliらの研究6では、連続変数やカテゴリ変数などが混在する、高価で広大な航空工学の設計空間に対して多目的ベイズ最適化を適用しています。連続変数とは、部品の寸法や配置のように数値を連続的に変えられる条件です。一方、カテゴリ変数とは、数値の大小では表せない条件のことです。
※多目的ベイズ最適化や後述のパレートフロントといった専門用語については、弊社の別ブログで詳しく解説しています。
図1に示す例では「同一系列の派生機ファミリー内で、主翼・エンジンなどのコンポーネントやシステムをどこまで共通化するか」というカテゴリ変数を扱っています。実務上は設計変数にカテゴリ変数が含まれることが多いと思いますが、この研究ではそれが考慮されています。なお「同一系列の派生機ファミリー」の例としては、ボーイング787-8と787-9、エアバスA350-900とA350-1000のように、胴体長や座席数などが異なる派生機群が挙げられます。
この例の目的変数は、①OEM側の設計開発などの費用と②航空会社側の直接運航費用の2つです。定性的に単純化すると、共用化するコンポーネントを増やすほど開発負担である①は減ります。一方で、各派生機に特化した性能追求に制限がかかり、ファミリー全体の運用費用である②は増加します。この例は、共通化によるメリットとデメリットを費用として数値化し、妥協点を探る最適化問題と捉えることができます。

参考文献[6]を参照し筆者作成(点の配置は模式的なもの)
目的変数:①OEM側の設計開発などの費用(横軸)、②航空会社側の直接運航費用(縦軸)
左下ほど望ましい。
この研究で別に示す例では水平尾翼設計を対象としており、どの材料・製造方法を採用し、どのサプライチェーンで製造するかを同じ枠組みで検討しています。評価するのは、設計の結果として算出される機体性能だけではなく、①燃料消費量、②供給リスク、③リードタイム、④製造品質、⑤製造コストです。さらに、材料と製造方法の組み合わせや各サプライチェーンが対応可能な工程などの制約も考慮されます。その結果、候補の組み合わせは非常に多くなり、すべてを総当たりで評価することが現実的ではなくなります。
この問題設定はPIが対象とする製造条件探索とよく似ています。製造条件探索でも、温度や時間のような連続条件だけでなく、材料、設備、工法などの選択を含み、品質、コスト、生産性などの複数の目的を同時に考えることがあります。対象は異なっても、異なる種類の変数と複雑な制約の下で限られた試行回数から有望な候補を探すためにベイズ最適化などを用いる、という構図は共通しています。
また、この研究でもう一点注目すべきなのは最適化アルゴリズムだけでなく、それを実際の業務で動かすためのシステム構成まで検討されている点です。各社・各拠点の解析ツールを一か所に集約せず、データを安全に交換しながら連携させることで、既存の解析資産や知的財産を保ったまま共同で最適化を進める仕組みを構築しています。PIを個別の予測モデルにとどめず、CAEや業務システムと連携した探索基盤へ広げるうえでも、実務的で示唆のある考え方です。
実務で設計、製造、調達の全領域を一度に最適化するのは容易ではありません。しかし、設計変更による性能向上と、製造・調達変更に伴う追加コストやリスクを同じテーブルに載せるだけでも、意思決定の質は変わります。多目的最適化が提示するのは唯一の正解ではなく、何を重視すると何を失うかを可視化した候補群、すなわちパレートフロントです。これは、複数部門の合意形成にも有効です。
事例2:複合材成形プロセスの最適化
次に、PI本来の対象である製造プロセス最適化の例も紹介します。複合材の硬化プロセスでは、温度、圧力、昇温速度、保持時間、部品形状、治工具、オートクレーブ内の熱伝達などが、硬化度、内部欠陥、残留応力、成形後変形に影響します。実部品で条件を総当たりすることは現実的ではなく、高精度シミュレーションも多数回実行すると計算コストが問題になります。
そこで、物理シミュレーションを教師データの生成器として使い、その入出力関係をガウス過程やニューラルネットワークなどのサロゲートモデルで近似する方法が考えられます。Humfeldらは、複合材オートクレーブ成形を対象に、工程初期の温度計測から境界条件を推定し、スペック要求を満たす硬化サイクルを調整する枠組みを提案7しています。また、Limayeらはプレプリントにおいて数値シミュレーションと制約付きベイズ最適化を組み合わせ、完全硬化などの制約を満たしながら硬化後変形を小さくする条件探索を検討8しています。
ここで重要なのは、サロゲートモデルに最終的な妥当性確認まで委ねないことです。物理的な知見に基づく条件設定と最終確認はシミュレーション側に残し、データ駆動モデルは高価な計算を効率化する役割を担います。この分担により計算コストと説明可能性の両立を図りやすくなります。
小さく始めて適用範囲を広げる
高い信頼性が求められる領域ほど、最初から高いレベルを目指すべきではありません。まずは過去データの整理と可視化、次に候補推薦による専門家の補助、さらに適用範囲を限定した制約付き最適化へと進める方が、効果と課題を評価しやすくなります。
各段階では、モデルの精度だけでなく、最終的な目標に対して専門家がどのように評価・判断するかの基準をあらかじめ設けておきます。たとえば、以下の通りです。
- データの整理と可視化の段階では、どの範囲・粒度であれば意思決定に使えるか、異常値や欠損値がどの程度許容されるかを確認します。
- 候補推薦の段階では、提示された候補のうちどこまでが検討対象として妥当か、推薦の見落としが業務に与える影響をどう評価するかを明確にします。
- 制約付き最適化の段階では、現実の業務条件をどのようにモデルに反映するか、最終的にどの案を採用するかの意思決定責任をどこに置くかを定めます。
このように、各段階で何をもって有効とするか、誰が判断を行うかを整理しておくことで、導入後の運用や改善が現実的なものになります。
まとめ
航空機の安全率1.5は決して安全性を軽視した数字ではありません。制限荷重と終極荷重の定義、解析と試験、材料・製造・検査の管理、ComplianceとConformity、そして変更管理まで含めた体系の中で成立しています。また、その安全性はスペックへの適合を実証する仕組みによって支えられています。
一方で、この厳格さは設計変更や新技術導入の難しさにもつながります。高精度なCAEや機械学習モデルを用意しても、それだけで認証根拠になるわけではありません。実績のある解析・試験・判定方法を主系統として残しながら、その前段階でどの候補を詳しく調べるべきか、どの条件を早めに除外できそうかを整理することが現実的です。
このような検討にプロセスインフォマティクスで培われてきた考え方を適用できる可能性があります。複数目的、高価な試行、厳しい制約、限られたデータという条件は、航空機の設計・製造にも共通しています。サロゲートモデルや制約付き・多目的ベイズ最適化は、認証を置き換えるためではなく、詳しく検討すべき候補を絞り、設計・製造・調達をまたぐトレードオフを可視化し、次に確認すべき条件を決めるための道具として有効です。 高信頼性領域でデータ活用を進めるには、何が予測できるかだけでなく、どこまでモデルに任せ、どこから従来の解析・試験・専門家判断で確認するかを意識する必要があります。過去データの整理と可視化から始め、候補推薦、限定された範囲での制約付き最適化へと段階的に広げていくことが現実的です。認証や品質保証の仕組みを置き換えるのではなく、その前段階の探索と判断を効率化することに、プロセスインフォマティクスの枠組みを適用する実務的な価値があると考えています。
参考文献
- 堀越二郎『零戦 その誕生と栄光の記録』角川文庫 ↩︎
- Electronic Code of Federal Regulations, 14 CFR Part 25, Subpart C, §25.301,§25.303, 25.305, 25.307. https://www.ecfr.gov/current/title-14/chapter-I/subchapter-C/part-25/subpart-C ↩︎
- Electronic Code of Federal Regulations, 14 CFR Part 21, Subpart B, §21.17, 21.20, 21.21, 21.33. https://www.ecfr.gov/current/title-14/chapter-I/subchapter-C/part-21/subpart-B ↩︎
- Electronic Code of Federal Regulations, 14 CFR §21.137. https://www.ecfr.gov/current/title-14/chapter-I/subchapter-C/part-21/subpart-G ↩︎
- Federal Aviation Administration, Advisory Circular AC 21-26A, “Quality System for the Manufacture of Composite Structures,” 2010. https://www.faa.gov/documentLibrary/media/Advisory_Circular/AC_21-26A.pdf ↩︎
- N. Bartoli et al., “Multi-objective Bayesian Optimization With Mixed-categorical Design Variables for Expensive-to-evaluate Aeronautical Applications,” AEROBEST 2023, Vol. 1, No. 1, 2023. arXiv:2504.09930. https://arxiv.org/abs/2504.09930 ↩︎
- K. D. Humfeld and N. Zobeiry, “Machine Learning-Based Process Simulation Approach for Real-Time Optimization and Active Control of Composites Autoclave Processing,” SAMPE, 2021, DOI: 10.33599/nasampe/s.21.0476. https://doi.org/10.33599/nasampe/s.21.0476 ↩︎
- M. Limaye et al., “Numerical Simulation Informed Rapid Cure Process Optimization of Composite Structures using Constrained Bayesian Optimization,” arXiv preprint arXiv:2505.24775, 2025. https://arxiv.org/abs/2505.24775 ↩︎

