6ヶ月で結晶成長速度が3倍となる最適なノズル設計を発見 〜GaNのHVPE反応炉〜
窒化ガリウム(GaN)のバルク基板製造で主流となっているHVPE法では、複雑なガス流れと温度場の最適化が必要です。反応ガスは数百にも及ぶ原料ノズルから供給されており、ノズルごとの径やガス種、流量を緻密に設計する必要があります。当社では、ガス流れと温度場のシミュレーションを深層学習で2万倍高速化し、1億通りの条件を仮想スクリーニングしたところ、結晶成長速度が従来比で3倍となる原料ノズル設計を発見しました。期間は6ヶ月でした
背景
窒化ガリウム(GaN)は現在主流のシリコン(Si)に比べ優れた物性を有し、すでに高輝度光デバイスで実用化されており、また高速充電器のような民生品でも利用され、身近な素材となりつつあります。GaNデバイスのさらなる社会実装に向けて、GaN 基板そのものの基板コスト低減や高い結晶性が求められています。
課題
現在、GaN基板製造ではHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法が主流な製造として使われています。HVPE反応炉では複数ガスを送り込み、狙った位置で化学反応させて結晶成長させるため、反応炉内部で原料ガスの流れ制御や温度場、化学反応の制御が必要となります。しかし、密閉空間である反応炉内部の観測は難しく、さらにガスを供給するノズルの径や配置を自由に設計できる高い自由度をもつ反面、膨大なパターンが候補となるため、現実的かつ限定的な範囲での装置設計に留まっていました。
共同研究企業では高精度な結晶成長シミュレータを有しており、反応炉内部のガス流動や化学反応を数値計算し、装置設計や結晶成長条件の最適化を行ってきましたが、高精度な計算がゆえに計算コストが非常に高く経験的な試行錯誤に依存した開発体制で、開発効率化に課題を抱えていました。
アプローチ
高精度な結晶成長シミュレータを教師データとして深層学習モデルで学習し、シミュレーション結果を推論するサロゲートモデルを構築しました。さらに、そのサロゲートモデルを使って、膨大な原料ノズルパターンを計算し、原料収率が高く、高速成長(高い生産性)が見込める有望なガスノズル設計を仮想スクリーニングしました。
得られた結果
サロゲートモデルによる推論は、シミュレーション結果とほぼ同程度でありながら、従来6時間かかっていた計算がわずか1秒で得られ、約2万倍高速化できました。さらに、1億通りにも及ぶ膨大な原料ノズルパターンを仮想スクリーニングしたところ、従来比で3倍となる結晶成長速度を実現する原料ノズル設計を発見しました。最適な原料ノズルは結晶成長技術者も驚くほど非対称的なパターンであり、経験や勘の延長では得られない設計でした。期間は約6ヶ月でした。
今後の展望
本事例では、複雑かつ密閉された反応炉内部のガス流れを最適化する方法として、サロゲートモデルを用いた仮想条件スクリーニング手法を行いました。シミュレーションを高速化したサロゲートモデルを使って膨大なパラメータを計算するという方法は HVPE反応炉に限らず様々な装置設計にも展開できる技術です。