CMPの基礎知識と役割
半導体デバイスの微細化および多層配線化を実現させるために、ウェーハ表面を平坦に磨き上げることは不可欠です。ここで用いられている技術が化学的機械研磨(Chemical Mechanical Polishing; CMP)です。CMPでは研磨パッドを研磨定盤の上に貼り付け、それを所定の速度で回転させます。そこにCMPスラリーが供給され、続いて研磨ヘッドにウェーハを固定し、回転させながらパッドに押しつけてウェーハの表面層を研磨します(Fig. 1)1。
本記事では、CMPおよびCMPに用いられる研磨粉であるCMPスラリーの基礎的な解説から、CMPが現在抱える課題、そして機械学習技術を応用したその課題の解決事例を解説します。

CMPスラリーとは何か?
CMPスラリーとは、半導体デバイス製造のCMP工程において、ウェーハ表面を化学的・機械的に研磨し平坦化するために供給される液体混合物です。CMPスラリーは多くの場合、水を主成分とする液体成分、化学成分、砥粒から構成されます。各成分は、液体が砥粒と化学物質を分散させる溶媒、化学成分が試料表面に研磨され易い変質層の形成、砥粒が変質層の研磨の役割をそれぞれ担います1。
CMPの主要な用途
CMPはウェーハ表面に形成されたシリコン酸化膜を精密な平坦化や、デバイス上の銅配線形成の工程の一つとして行われます。
シリコン酸化膜の平坦化のために行われるCMPは、スラリーの酸化剤の作用により軟質のSiO2酸化層を形成させ、砥粒で削り取ることで平滑化を行います。Si酸化膜に対しCMPを行うことで、数nm-数十nmレベルの高精度な平坦性を実現することができます。
銅配線形成にはダマシン法という方法が用いられます。Figure 2にダマシン法の概略図を示します。ダマシン法ではまず絶縁膜(例えばSiO2)に配線パターンとなる溝を形成し、この溝の表面にCuの拡散を防止するバリアメタル層(通常はTaやTaN)とCu電解メッキのためのシードメタル層を形成します。その後電解メッキによりCuの埋め込みを行います(Fig. 2(a))。電解メッキ後の表面層には凹凸が残っている状態のため、Cu研磨用のスラリーを用いてCMPを行い、配線に不要なCuを除去します(Fig. 2(b))。バリア層が露出した時点で、バリアメタル研磨用のスラリーに替えてバリア層を研磨し、最終的に平坦化された配線層を得ます(Fig. 2(c))3。

CMPスラリーの製造方法
CMPスラリーは通常、希釈・混合工程を経た2種類以上の原料から始まります。希釈の際は、スラリーを汚染する可能性のある微粒子を減らす必要があるため濾過された純水を用います4。
CMPスラリーに使用される砥粒の粒径は100 nm前後であり、この砥粒をスラリー全体に均一に混ぜ込ませる「分散技術」が不可欠です。分散には、粉体・液体混合液に対して攪拌羽を高速回転させ、攪拌羽のせん断力を利用して凝集している粒子を破砕し、粒子を溶液中に均一分散させる攪拌分散という技術が用いられます5。
CMPの課題と半導体製造における挑戦
上述のように、CMPは半導体デバイスの製造に必要不可欠な工程です。昨今の半導体デバイスの微細化に伴い、CMP工程でもより厳しい製品品質のコントロールが求められています。ここでは、CMPが解決すべき課題について紹介します。
CMPスラリーの材料除去率の不確実性
半導体デバイスの高度な量産技術の確立のために、加工品質には厳しい要求が課されます。その中でも特に材料除去率(Material Removal Rate; MRR)は重要な指標のひとつです。
MRRは単位時間あたりにどれだけの材料が除去されたかを示す指標であり、CMPプロセスの効率を直接的に表します。研磨を過不足なく終了させ、製品の均質性並びに生産効率の向上を実現させるためにMRRの正確な予測は不可欠です。しかし、CMPは化学的作用と機械的作用が働く複雑なプロセスであるため、単純な物理モデルによるMRRの正確な予測は困難です6。
微細構造の欠陥リスク
CMPの過程で発生する欠陥は後の工程や完成後の半導体デバイスの品質に大きな影響を与えます。そのためCMPにおける欠陥発生の抑制は重要な課題となっています。CMPで発生する主要な欠陥種としては、スラリーや研磨パッドから残留する有機残留物、スラリー中の研磨粒子や研磨過程で生じた微粒子などの表面粒子、研磨過程で生じる微細な傷であるスクラッチ、そして研磨後の表面に残る結晶粒の凹凸などがあります。
玉井らの研究では、研磨時間の長さや研磨枚数の増加、CMP中のシリカの凝集が表面欠陥やスクラッチに大きな影響を与えていることが報告されています7。
CMPプロセスのリアルタイムモニタリングの難しさ
MRRの向上や欠陥発生の抑制には、CMPプロセスの理解が不可欠ですが、前述のようにCMPプロセスは化学的作用と機械的作用が働く複雑なプロセスであるため、単一の指標のみに着目してCMP中に発生している現象を正確に把握することは困難です。
この課題を解決するために、粒子のサイズ・濃度・分布のほか、スラリー流量・研磨パッド表面形状・材料特性・化学反応の影響など複数の指標の影響を同時に考慮したMRR予測モデルや、機械学習を用いたデータ駆動型のMRR予測モデルなどが提案され、課題解決に向けた取り組みが継続的に行われています6,8。
CMPプロセスにおけるAI・機械学習の適用事例
これまで述べてきたように、CMPは化学的作用と機械的作用が相互に影響を与え合う非常に複雑なプロセスです。このような複雑な現象を表現する際に、機械学習を用いたアプローチは大きな力を発揮します。ここでは、機械学習を用いたCMPプロセスに対する最新の取り組みを紹介します。
物理ベースの機械学習によるCMPスラリーの材料除去率の予測9
MRRを高精度に予測することは、半導体デバイスの品質と生産性の向上に直結します。従来提案されてきたような物理ベースのMRR予測モデルではプロセス機構を捉えやすい一方でパッド摩耗や各種条件の複雑な影響を正確に扱うのが難しく、データ駆動型のMRR予測モデルでは基礎となる物理を深く理解することができないという課題がありました。
Yuらは、物理モデルと機械学習を組み合わせたMRR予測モデルを提案しました(Fig. 3)。

この予測モデルでは、まずパッドの表面形状進展や接触力学、単一砥粒の除去機構などを考慮した多階層モデルを構築し、そのうえで研磨パッドやドレッサの使用状況を機械学習(ランダムフォレスト)により推定し、パッド粗さの進行度合いを定量化します。こうして得られた予測パラメータを物理モデルに組み込み、MRRを高精度に算出します。実験データを用いた予測モデル性能の検証では、提案手法が従来方式よりも優れた精度でMRRを予測し、パッドの摩耗や条件変動下でも安定した結果を示したことが報告されています。
機械学習を用いたリアルタイムCMPプロセスモニタリング10
CMPプロセスで発生する品質不良は、ウェーハのスクラップや材料の無駄につながるだけでなく、後の半導体デバイスの品質に大きな影響を与えます11,12。したがってCMPプロセスの以上をリアルタイムで検知し早急な対策を講じることは、ウェーハ欠陥と歩留まり損失の低減に大きな役割を果たします。しかし、CMPのような超精密プロセスモニタリングは、センサの信号変化が極めて小さいため、異常発生に伴う信号変化がノイズに埋もれやすく、感度が低いという課題がありました。
Figure 4(a)に研磨パッド磨耗時の振動センサのデータ、(b)にスラリー供給停止時の振動センサのデータを示します。研磨パッド磨耗時のように、時間領域の状態でも何らかの異常発生が目視で分かる場合もありますが、スラリー供給停止の異常発生時はそうではありません。このような場合でも信号を周波数領域に変換し、可視化することで変化を検知することが可能です(異常発生前Fig.4(c),異常発生後Fig. 4(d))。Liuらの研究では、振動センサから取得した信号を周波数領域や時間周波数領域(Fourier変換やHilbert-Huang変換)で解析し、抽出されたスペクトルをランダムフォレストで分類することで、微小な変化でも高い精度で異常を検出できることを示しました。銅ウェーハを用いた実験では、スラリー供給が途切れるなどの時間領域では軽微な異常発生時でも、本手法は従来のプロセス異常検知手法に比べ、平均検出時間を大幅に短縮し、最速で10倍近い早期検知を達成しました。

ニューラルネットワークポテンシャルによる研磨プロセスのシミュレーション13
株式会社レゾナックは、2024年8月に、AIを活用した新しいシミュレーション技術「ニューラルネットワークポテンシャル(Neural Network Potential; NNP)技術」をCMPスラリーによる半導体基板研磨メカニズムの解明に初めて導入したと発表しました。
NNPとは、機械学習の一種であるニューラルネットワークを用いて、物質内の原子同士の相互作用エネルギーを高精度かつ高速に計算する技術です。NNPでは、事前に第一原理計算で得られたデータを使って機械学習モデルを訓練します。
機械学習を用いた予測モデルの最大の強みは、第一原理計算に代表されるシミュレーションアルゴリズムなどと比較した際の圧倒的な計算速度の速さにあります。株式会社レゾナックの発表によると、NNPを用いた従来の第一原理計算と比較して、同程度の精度を維持しながら10万倍以上の速度で化学反応のシミュレーションを実行できます。この技術により、ナノメートルスケールでの複雑な界面挙動を精密に可視化し、実験だけでは捉えにくい研磨メカニズムを詳細に理解することが可能になりました。
プロセスインフォマティクスとCMPの関係
プロセスインフォマティクスとは?
プロセスインフォマティクスは、データ駆動型のアプローチによって製造プロセスを最適化する手法です。データに基づいて製造プロセスを管理することで、品質向上やコスト削減が可能となり、製造業全体の効率化を支えています。
プロセスインフォマティクスに関する詳細な内容は、弊社の過去のブログでも紹介していますので、興味をお持ちの方は是非こちらのブログもご覧ください。
CMPとプロセスインフォマティクスの融合による最適化
これまで、CMPの最適なプロセスパラメータの設定や、CMPスラリー組成の決定は人の試行錯誤によって行われてきました。しかし、それらのパラメータの組み合わせは数多あり、人の手で最適化を行うのは至難の業です。
機械学習を用いた製品品質の予測は、CMPのように複雑な物理現象を有するプロセスにおいて有効です。これまでの試行錯誤がデータとして蓄積されており、新たな製品の開発に行き詰まっている場合、まさにプロセスインフォマティクスを活用したプロセス最適化の出番といえるでしょう。プロセスインフォマティクスを活用したソリューションは、最適化のみならず従来の知見に囚われない数学的観点からのプロセスの新たな理解を我々に与えてくれるでしょう。
参考文献
- 本間喜夫, “次世代半導体用 CMP スラリーおよびパッド技術の課題,” Electrochemistry, vol. 77, no. 12, pp. 1037-1042, 2009. ↩︎
- J. Seo, “A review on chemical and mechanical phenomena at the wafer interface during chemical mechanical planarization,” Journal of Materials Research, vol. 36, pp. 235-257, 2021. ↩︎
- 橋口裕一, “化学的機械的研磨 (CMP) 用スラリーにおける電気化学,” Electrochemistry, vol. 74, no. 12, pp. 967-971, 2006. ↩︎
- 3M Purification Inc., “Chemical Mechanical Planarization (CMP) Slurry Manufacturing,” 2011. ↩︎
- 株式会社トッパンインフォメディア. “CMPスラリーとは.” https://www.toppan-im.co.jp/lp/cmp-slurry.html ↩︎
- Z. Li , D. Wu, “A Data-driven approach to material removal rate prediction in chemical mechanical polishing,” 2018, vol. 10, 1 ed. ↩︎
- 玉井一誠, 赤塚朝彦, 森永均, 土肥俊郎, 黒河周平, “CMP 加工中の砥粒凝集が表面欠陥に与える影響,” 精密工学会学術講演会講演論文集, vol. 2009, no. 0, pp. 1013-1014, 2009. ↩︎
- H. S. Lee, H. D. Jeong, D. A. Dornfeld, “Semi-empirical material removal rate distribution model for SiO2 chemical mechanical polishing (CMP) processes,” Precision Engineering, vol. 37, no. 2, pp. 483-490, 2013. ↩︎
- T. Yu, Z. Li, D. Wu, “Predictive modeling of material removal rate in chemical mechanical planarization with physics-informed machine learning,” Wear, vol. 426, pp. 1430-1438, 2019. ↩︎
- J. Liu, J. Zheng, P. Rao, Z. Kong, “Machine learning–driven in situ process monitoring with vibration frequency spectra for chemical mechanical planarization,” The International Journal of Advanced Manufacturing Technology, vol. 111, no. 7, pp. 1873-1888, 2020. ↩︎
- M. Berman, T. Bibby, A. Smith, “Review of In Situ & in-line detection for CMP applications,” Semiconductor Fabtech, pp. 267-274, 1998. ↩︎
- P. K. Rao et al., “Process-machine interaction (PMI) modeling and monitoring of chemical mechanical planarization (CMP) process using wireless vibration sensors,” IEEE Transactions on Semiconductor Manufacturing, vol. 27, no. 1, pp. 1-15, 2013. ↩︎
- 株式会社レゾナック. “AI活用の最先端シミュレーション技術で半導体材料開発を加速
~CMPスラリーによる半導体基板研磨メカニズムの解明に、精度を維持しつつ、10万倍速以上の計算手法を初めて適用~.” 株式会社レゾナック. https://www.resonac.com/jp/news/2024/08/06/3179.html ↩︎